どうも。WEBコンサルタント見習いからビルの受付係にダウンシフトした鈴木よそじです。※→ 実践ダウンシフト!納期や成果物を求められない働き方へ。アラフォーダウンシフターのお仕事
この度、私に仕事を教えてくれていた先輩社員ヒノキカワさんが、予定通りに解雇されました。
とても気さくな人柄だったヒノキカワさんを偲んで、彼がこの二ヶ月の間に残した言葉をここに残そうと思います。
ヒノキカワさん(仮名)
50代半ば。独身。高齢のご両親と実家暮らし。
冗談と下ネタが好き。
ナチュラルにゲップをする。
さて、この文章に労力をかける必要もないので、どんどん先に進みましょう。
ヒノキカワさん語録
「おミソ出してくる」
私の勤務初日、ヒノキカワさんがトイレに行く時に残した言葉。
私にコレを書かせる力をくれた。
「ココの部分ベロベロしちゃおうかな」
ビル内で働くきれいめマダムに貸した自分の傘が返ってきた時に、傘の柄の部分を指差して言ったひと言。
「月木はパン、火金はごはん、水は麺」
お昼のコンビニメニューのジャンルを決めていて、具体的に何を食べたかクイズを出してくれる。
二ヶ月間このクイズに答えて、見えてきた傾向をあなただけにお伝えしておく。
パンはほぼヒレカツサンド、ごはんは牛丼かカレーライスたまに親子丼、麺は和風系パスタが多い。
ちなみに、幕の内的なおかずとごはんの弁当は、つけものが温まるのがイヤだから嫌いだそうだ。
「もうそろそろ故障したロボットが来るよ」
こう言われて数分後、毎日通る足の不自由な通行人が目の前を通り過ぎる。
・・・。
「いいね~、両手でくれるんだよ?ムラムラしちゃう」
受付係の夕方の三大任務のひとつに “夕刊を受け取る” という任務がある。
新聞配達の若い女性がヒノキカワさんのお気に入りなのだ。
客観的に見て “女性である” ということ以外、取り立てて特徴はないし、態度はむしろ冷たい。
ちなみに、夕方の三大任務のあとふたつは、 “自転車を整える” 、 “シャッターを閉める” このふたつである。
「いい足してんなぁ。かみつきたくなっちゃう」
通り過ぎる女性の足が目に入り「なんかシミだらけの足だな・・・」と私が思った直後に出た言葉。
毎度だが、対象のリアルさに戸惑う。
「デブほど外に行くんだよ」
お昼休みにごはんを外に食べに行く人たちを眺めつつため息混じりに。
確かに、 “カバンにあえてブタのキーホルダーを付けているブタっぽい女性” や、 “横からみるとえらい身体の分厚い大木のようなマダム” もいつも外食だ。
「もらえるものはすべてもらう」
それとなく今後を聞いてみたところ、きっぱりと断言。
六ヶ月プラス延長二ヶ月分の失業保険をすべてもらいきるまで仕事をする気はないとのこと。
高齢のご両親と三人で暮らしている。
「そういえば、今日はまだウンコしてねえな」
最終日の退勤一時間前の言葉。
「一発出してくる」と言い残し、ゆっくりとトイレに向かう。
ウンコに始まり、ウンコに終わった、彼と私の関係であった。
解雇理由と、言葉以外に残した数々の記憶
ヒノキカワさんは視力が弱い。
解雇の理由もそれだ。
お偉いさんを見逃して素通りさせたことがクライアントの逆鱗に触れたらしい。
視界がせまく、距離感もつかみづらいようだ。
受付用のボールペンの位置がちょっと変わると、手探りで5秒ぐらい探している。
私が休憩から戻ると、他の行ったり来たりする人たちと間違えて「おかえりなさーい」とかあいさつしてくる。
「コーヒーとってくれる?」と言われて渡すと、やけに下をつかみ、薬指と小指が空中をつかんでいたりする。
郵便物を受け取る時も、動きはものすごく自然なのに、よく見ると封筒が中指と薬指の間にはさまっていたりする。
つかむ、受け取るというより、手に当てることで初めて感じている。
ついでに言うと、いつも手が震えている。
なので、字はこんなだ。
目が悪い代わりに、すこぶる耳がいい。
「あ、○○さんだ」と、まだ現れていない人の足音で、誰が来るのかが分かるのだ。
同じタイミングで私には聞こえないし、たとえ聞こえたとしても人物を特定できるとは思えないような音を、ヒノキカワさんは聞き分ける。
視力を補ってあまりある聴力。
人間の神秘を感じざるを得ない。
知っておきたいヒノキカワさん豆情報
- ポイントカードに目がない
- ストロングゼロ(アルコール9%のチューハイ)の500ml缶を毎晩3本飲む
- 忘れ物の傘でいいヤツがあると「ヒノキカワ」と書いた小さい紙をセロテープで貼り付けてキープする。※上の方で、マダムに貸した傘を自分の傘と書いたが、それも忘れ物をキープした傘である
- 住民税を滞納している
- 勤務最終日に寝坊をした理由は、帰ったら両親が家におらず二時間半玄関先で待たされ、寝る時間が遅れたため。※寒くて玄関先で立ち小便をしたとのこと
失ってこみ上げる意外な感情
研修期間、二ヶ月。
働いてみた実感としては、短ければ1~2週間、どんなに長くても1ヶ月あれば充分な業務内容だ。
なにしろ業務の8割は “行ったり来たりする人たちにあいさつする” こと。
あとは、軽く掃除をするとか、自転車を整理するとか。
そんなワケなので、けっこううんざりするほど二人勤務の期間があり、一人になったらのびのび晴れやかな気分だろうなぁ~なんてことを思っていた。
ところが、今日から一人勤務となった当日に私を待ち受けていたのは、圧倒的な “孤独” 。
とにかく心細い。
あんなにジャマ臭く、実際に臭かったヒノキカワさんが恋しいのである。
それまでなんとも思わなかった、行ったり来たりする人たちのリアクションが、やけに冷たく感じる。
二人勤務の時は、そのリアクションはヒノキカワさんに向けられたものと、無意識に脳が処理していたのかもしれない。
一人になったとたん、やけっぱちに冷たいのである。
もう二十年も前、 “透明な存在であるボク” なんて言ってた人殺しがいたが、まさにそんな気分だ。
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と思っていた午前中が懐かしく思える、のびのびと晴れやかな午後の私なのであった。
~ fin ~
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